保育園の非常災害対策計画|必須9項目と、消防計画との違い
この記事の要点(3行)
①非常災害対策計画は、条文上は努力義務。しかし指導監査では「計画が作成されていない場合」の指摘文が用意されている項目です。
②計画には9つの項目が求められます。抜けやすいのは「避難を開始する時期、判断基準」です。
③消防計画とは目的も届出先も違います。ただし1冊にまとめること自体は否定されていません。
※ この記事は保育園(保育所)・認定こども園・地域型保育事業所を対象としています。以下、まとめて「保育園」と表記します。
「非常災害対策計画」と「消防計画」。名前が似ているので、どちらか一方があればよいと思われがちです。しかし、この2つは根拠も、目的も、出す先も違います。
そして指導監査で細かく見られるのは、消防署に届け出ている消防計画ではなく、園の中に置いてある非常災害対策計画のほうです。
この記事では、非常災害対策計画に何を書くのか、消防計画との違い。そして監査では実際にどこまで見られるのかを整理します。
条文は「努力義務」。でも、作らない選択肢はありません
まず根拠を正確に押さえます。児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第6条は、次のようになっています。
第六条 児童福祉施設(略)においては、軽便消火器等の消火用具、非常口その他非常災害に必要な設備を設けるとともに、非常災害に対する具体的計画を立て、これに対する不断の注意と訓練をするように努めなければならない。
2 前項の訓練のうち、避難及び消火に対する訓練は、少なくとも毎月一回は、これを行わなければならない。
つまり、計画を立てること自体は努力義務、避難・消火訓練を毎月1回以上行うことは義務です。ここは正確に区別しておく価値があります。
ただし、「努力義務だから作らなくてよい」とはなりません。自治体の指導監査基準には、計画が作成されていない場合の標準例文がはっきり用意されているからです。
| 指摘の場面 | 示される是正内容 |
|---|---|
| 計画が作成されていない | 非常災害に対する具体的な計画(非常災害対策計画)を作成すること |
| 内容が不十分 | 施設の状況や地域の実情を踏まえ、実効性のあるものとすること |
| 職員間で共有 できていない | 計画の内容については、職員間で十分共有すること |
| 見直しが行われて いない | 避難訓練を実施し、計画の内容を検証し、見直しを行うこと |
出典:高槻市「令和7年度 指導監査基準」(2 非常災害対策 (1)防災の項)
注目していただきたいのは、「作ったかどうか」だけでなく、「内容」「共有」「見直し」まで別々に指摘事由が用意されていることです。棚に置いてあるだけの計画は、それだけで3つの指摘に当たり得ます。
計画に入れるべき9項目
指導監査基準は、非常災害対策計画に含まれるべき項目を具体的に挙げています。ひとつでも欠けていると「内容が不十分」と判断される可能性があります。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| ①立地条件 | 浸水想定・土砂災害警戒区域・海抜・周辺の危険物など |
| ②情報の 入手方法 | 気象警報や避難情報を、誰が、どの手段で受け取るか |
| ③連絡先・ 通信手段 | 市町村、消防、医療機関、法人本部などの連絡先と手段 |
| ④避難の時期・ 判断基準 | どの情報が出たら避難を開始するか |
| ⑤避難場所 | 指定避難場所、近隣の安全な場所、屋内の安全な場所 |
| ⑥避難経路 | 災害の種類ごとの経路。危険箇所も明記する |
| ⑦避難方法 | 年齢別の移動手段(避難車・おんぶ紐など) |
| ⑧人員体制・ 指揮系統 | 誰が指揮を執るか。不在時の代行者は誰か |
| ⑨関係機関 との連絡体制 | 市町村・消防・地域との通報と連携の手順 |
出典:高槻市「令和7年度 指導監査基準」。同基準は「利用者の安全確保及び非常災害時の体制整備の強化・徹底について」(雇児総発0901第3号)を根拠として挙げています。
いちばん抜けるのは④「避難を開始する時期、判断基準」
①〜③、⑤〜⑨は、施設の情報を書き写せば埋まります。しかし④は、園で決めなければ書けません。だから、ここが計画策定のポイントです。
書き方のコツは、「情報の名前」で決めることです。「危険を感じたら」「園長の判断で」ではなく、次のように書きます。
- 大雨警報(土砂災害)が発表されたら、園庭活動を中止し、情報収集を開始する
- 警戒レベル3(高齢者等避難)が発令されたら、避難の準備を始め、保護者に連絡する
- 大津波警報が発表されたら、判断を待たずに3階以上へ避難する
- 震度5強以上の地震が発生したら、園庭に一次避難し、建物を点検するまで戻らない
こう書いておくと、園長先生が不在の日でも、その場にいる職員が動けます。判断基準とは、決断を紙に前倒ししておく仕組みのことです。事前に決めておき共有する。災害時には個別に連絡はとれません。事前の決定事項として職員が把握しておくものを作成します。
9項目のほかに、求められている4つのこと
監査基準は、9項目とは別に次の4点も求めています。ここは見落とされがちです。
- 火災だけの計画にしない。火災・水害・土砂災害・地震など、地域の実情を踏まえた災害に対処できる内容にすること(災害ごとに別の計画を作る必要はありません)
- 複数の避難先を確保する。緊急の度合いに応じて「指定避難場所」「近隣の安全な場所」「屋内の安全な場所」の3段階を用意すること
- 引渡し方法を決めておく。災害時の家族等への連絡体制と、園における子どもの引渡し方法を確認しておくこと
- 訓練で検証して見直す。避難訓練を実施して計画の内容を検証し、見直しを行うこと
2番目の「屋内の安全な場所」は、津波や高潮のある地域では特に重要です。外へ逃げるほうが危険な災害があるため、園舎の何階に上がるかを計画に書いておく必要があります。
消防計画とは、何が違うのか
消防計画そのものについては、保育園の消防計画|避難訓練との関係と届出のタイミングで、防火管理者の選任と届出のタイミングまで整理しています。
| 項目 | 非常災害 対策計画 | 消防計画 |
|---|---|---|
| 根拠 | 設備運営基準 第6条第1項 | 消防法 第8条 |
| 性格 | 努力義務 (訓練は義務) | 義務 |
| 対象災害 | 火災・水害・土砂災害・地震など | 火災が中心 |
| 作る人 | 施設(園) | 防火管理者 |
| 届出先 | 提出不要 (監査で確認) | 所轄消防署へ届出 |
| 訓練 | 避難・消火を 毎月1回以上 | 消火・避難を年2回以上、通報を年1回以上 |
いちばん大きな違いは対象とする災害です。消防計画は火災を中心とした計画で、防火管理者が作成し、所轄消防署へ届け出ます。一方、非常災害対策計画は地震・水害・土砂災害まで含めて、園が自分のために作る計画です。提出先はありませんが、そのぶん監査で中身を細かく見られます。大阪市は地理的・歴史的に水害に対する備えが重要とされています。ここをしっかりと確認する必要があります。
なお、防火管理者の選任義務の有無や消防計画の様式は、建物の用途・規模・収容人員によって変わります。詳細は所轄の消防署にご確認ください。5つの計画の全体像は保育園・認定こども園に必要な5つの計画で整理しています。
監査の「防災」欄は、計画だけを見ているのではありません
高槻市の指導監査基準では、「非常災害対策(防災)」の欄に19の確認項目が並んでいます。計画の話はそのうちの一部にすぎません。
- ①消火用具・非常口など、非常災害に必要な設備を設けているか
- ②非常災害に対する具体的な計画を作成しているか(9項目)
- ③関係機関への通報・連携体制を整備し、定期的に職員へ周知しているか
- ④非常時の連絡・避難体制は確保されているか
- ⑤避難等訓練に、地域住民の参加が得られるよう連携に努めているか
- ⑥定期的に避難訓練・救出訓練その他の必要な訓練が行われているか
- ⑦避難訓練及び消火訓練が毎月1回以上行われているか
- ⑧訓練の実施記録が整備されているか
- ⑨非常口・非常階段・消火器の周りに物品が置かれていないか
- ⑩防火管理者を選任し、所轄消防署へ届け出ているか
- ⑪消防計画を作成(変更)し、所轄消防署へ届け出ているか
- ⑫消火・避難訓練が年2回以上(通報訓練は年1回以上)行われ、事前に消防署へ連絡しているか
- ⑬そのうち年1回は夜間訓練または夜間想定訓練か(※この行に「○」がついているのは高齢・障がい・保護の入所施設だけで、保育所・認定こども園・地域型保育は対象外です。詳しくは保育園の消防計画で説明しています)
- ⑭消防用設備等の法定点検を行い、結果を所轄消防署へ報告しているか
- ⑮点検で不備が見つかった箇所を速やかに改修しているか
- ⑯消防署の立入検査の指摘事項が改善されているか
- ⑰避難確保計画を作成し、訓練を実施し、市へ届け出ているか
- ⑱ライフラインが寸断された場合の対策を講じているか
- ⑲食料・飲料水・医薬品などの備蓄の対策を講じているか
なお、浸水想定区域や土砂災害警戒区域の中にある園は、非常災害対策計画とは別に避難確保計画の作成と市町村への届出が要ります。対象になる条件と届出・訓練報告の流れは、保育園の避難確保計画にまとめています。
出典:高槻市「令和7年度 指導監査基準」(保育所・認定こども園・地域型保育事業所の「2 非常災害対策 (1)防災」の項)を要約
この19項目を眺めると、監査が見ているのは「紙」ではなく「回っているかどうか」だと分かります。⑨の非常口の前に物が置かれていないか、⑮の不備が直っているか——どれも当日の現場を見れば分かることばかりです。
そして⑱⑲は、実質的にBCPの領域です。ライフラインが止まったとき、物資が届かないときにどうするか。監査基準には「業務継続計画」も独立した項目として存在します。
計画は1冊にまとめてよいのか
結論から言えば、まとめること自体は否定されていません。
- 監査基準は「災害ごとに別の計画として作成する必要はない」と明記しています
- 国土交通省は、消防計画に6つの事項を追記して避難確保計画とする方法を示しています
- 高槻市の避難確保計画の手引きも「非常災害計画や消防計画など施設独自の様式で作成しても問題ない」としています
ただし、まとめるときの注意点が2つあります。①それぞれの法令が求める項目がすべて入っていること。②消防署に届け出る消防計画と、園に置く計画で内容が食い違わないこと。この2つさえ守れば、園の負担は確実に減ります。
そのうえで、年間のスケジュール(点検・訓練・研修・見直し)は安全計画に束ねるのがもっとも管理しやすい形です。
【現場からのひとこと】
消防職員として20年間、査察や訓練指導で多くの施設の計画を見てきました。よくできた計画には、共通点があります。
固有名詞と数字が入っていることです。
「近隣の安全な場所へ避難する」ではなく「○○公園(園から270m、徒歩6分)」。「速やかに連絡する」ではなく「第1順位はLINE公式、つながらなければ電話連絡網」。ひな形の言葉のままになっている計画は、実際の場面ではほとんど役に立ちません。逆に、固有名詞が入っているだけで、初めて読む職員でも動けます。
非常災害対策計画は、提出先のない計画です。だからこそ、監査のためではなく、自分の園のために書ける計画でもあります。
いま確認しておきたい10項目
- 非常災害対策計画を作成しているか
- 火災以外(地震・水害・土砂災害)にも対処できる内容か
- 9項目がすべて入っているか
- ④避難を開始する時期・判断基準が情報の名前で書かれているか
- 避難先が3段階(指定避難場所/近隣/屋内)用意されているか
- 子どもの引渡し方法が書かれているか
- 指揮系統に不在時の代行者が定めてあるか
- 計画を全職員が読んでいるか(回覧や読み合わせの記録があるか)
- 訓練の結果を受けて、直近1年以内に見直したか
- 消防計画・避難確保計画と内容が食い違っていないか
よくあるご質問
Q. 非常災害対策計画は義務ですか?
A. 条文(設備運営基準第6条第1項)は「努めなければならない」という書きぶりで、努力義務です。ただし避難・消火訓練を毎月1回以上行うことは義務であり、指導監査では計画の作成・内容・共有・見直しについて指摘事由が用意されています。
Q. 消防計画があれば、非常災害対策計画は不要ですか?
A. 不要にはなりません。消防計画は火災を中心とした計画です。地震・水害・土砂災害を含む内容が求められる非常災害対策計画とは範囲が違います。1冊にまとめる場合は、両方の求める項目を満たす必要があります。
Q. 災害ごとに計画を分ける必要がありますか?
A. 必要ありません。監査基準にも「災害ごとに別の計画として作成する必要はない」と明記されています。1つの計画のなかで、災害ごとに判断基準と避難先を書き分ける形で構いません。
Q. 提出先はどこですか?
A. 非常災害対策計画に提出先はありません。園に備えておき、指導監査のときに確認されます。消防計画は所轄消防署、避難確保計画は市町村が提出先です。
Q. 見直しはどのくらいの頻度で必要ですか?
A. 頻度の明示はありませんが、監査基準は「避難訓練を実施し、計画の内容を検証し、見直しを行う」ことを求めています。安全計画の見直しが1年以内で判定されることも踏まえ、年1回、年度末に見直すのが実務的です。
Q. 備蓄はどのくらい必要ですか?
A. 監査基準では食料・飲料水・生活必需品・医薬品・衛生用品・情報機器・防寒具・燃料等の備蓄について対策を講じることが求められています。量の基準は示されていませんが、国のガイドラインは3日分を目安としています。
まとめ
- 条文は努力義務だが、監査には作成・内容・共有・見直しの4つの指摘事由がある
- 計画には9項目。抜けやすいのは④避難を開始する時期・判断基準
- 避難先は3段階(指定避難場所/近隣/屋内の安全な場所)を用意する
- 消防計画とは対象災害・作る人・届出先が違う。ただし1冊にまとめること自体は否定されていない
- 監査の防災欄は19項目。設備・訓練・点検・備蓄まで見られる
この記事の根拠資料
本記事の記述は、次の資料に基づいています。数値や条項を実務でお使いになる際は、原文をご確認ください。
- 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)第6条
- 家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準(平成26年厚生労働省令第61号)第7条
- 消防法第8条、消防法施行令第3条の2第2項、消防法施行規則第3条第10項・第11項、消防法第17条の3の3
- 水防法第15条の3、土砂災害防止法第8条の2
- 「利用者の安全確保及び非常災害時の体制整備の強化・徹底について」(雇児総発0901第3号)
- 高槻市「令和7年度 指導監査基準」「令和7年度 指導監査実施状況」
- 国土交通省「要配慮者利用施設の避難確保計画の作成等の義務化について」
保育園のBCPの努力義務との関係が分かりにくいというご相談をよくいただきます。こちらは別の記事で整理しています。
本記事は制度の概要を整理したものです。監査基準の項目や運用は市町村によって異なりますので、個別の判断は所管の窓口にご確認ください。
非常災害対策計画でお困りの方へ
非常災害対策計画は、提出先がないぶん「これで足りているのか」を確かめる機会がない計画です。
- 前任者が作った計画があるが、中身を確認したことがない
- 避難を開始する判断基準をどう書けばよいか分からない
- 消防計画・避難確保計画と内容が食い違っていないか不安
- 監査を控えていて、抜けがないか点検してほしい
- 安全計画・BCPまでまとめて整理してほしい
当事務所では、消防職員として20年間の現場経験と、行政書士・防災士・救急救命士の専門知識を活かし、保育園・認定こども園の非常災害対策計画の作成・見直し、訓練の設計、安全計画やBCPの策定まで一貫してサポートしています。すでにお持ちの計画を拝見して、手を入れたほうがよい点をお伝えすることも可能です。
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