保育園のBCPに「エッセンシャルワーカー」の記載はありますか?|行政からの要請と受入れ方針

この記事の要点(3行)
①コロナのとき、保育園は行政から「原則として開所」を求められていました。
②休園する場合でも、医療従事者などの子どもの受入れを検討するよう求められていました。
③一方で公的なBCPひな形にこの受入れ方針の記載はほとんど見当たりません。

災害や感染症が起きたとき、保育園は休むのか、開けるのか。

これは園が単独で決められる話ではなく、行政からの要請が関わってきます。そして過去の経験からいえば、保育園に求められたのは「休むこと」ではなく、多くの場合「開け続けること」でした。

この記事では、コロナ禍で実際に出された国の事務連絡を確認しながら、BCPに「誰を優先して受け入れるか」を書いておく意味を整理します。

コロナのとき、保育園は「原則として開所」を求められていました

令和2年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)第32条に基づく緊急事態宣言が出された当日、厚生労働省から事務連絡が発出されています。「緊急事態宣言後の保育所等の対応について」(厚生労働省子ども家庭局 総務課少子化総合対策室・保育課・子育て支援課)です。

そこには、こう書かれていました。

保育所については、保護者が働いており、家に1人でいることができない年齢の子どもが利用するものであることから、感染の予防に留意した上で、原則として開所いただくようお願いしている。

学校が一斉休校になったあの時期でも、保育園に求められたのは「開けること」でした。理由も明記されています。保護者が働いていて、子どもが一人で家にいられない年齢だからです。

実際に経験された園長先生には、当時の混乱とともに記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

休園するときでも、「受入れの検討」を求められました

同じ事務連絡には、保育を縮小する場合や、臨時休園する場合についても記載があります。

園児や職員が罹患した場合や地域で感染が著しく拡大している場合で保育の提供を縮小して実施することも困難なときは、臨時休園を検討すること。この場合においても、医療従事者や社会の機能を維持するために就業を継続することが必要な者、ひとり親家庭などで仕事を休むことが困難な者の子ども等の保育が必要な場合の対応について、検討いただきたい。

さらに、都道府県知事から施設の使用制限が要請されて休園する場合についても、同じ趣旨が書かれています。

要請に基づき保育所を休園する場合においても、医療従事者や社会の機能を維持するために就業を継続することが必要な者、ひとり親家庭などで仕事を休むことが困難な者の子ども等の保育が必要な場合の対応について、都道府県とも相談の上、検討いただきたい。

登園自粛をお願いする場合についても、「必要な者に保育が提供されないということがないよう」十分に検討するよう求められています。

つまり、「休園します」で終わりにはできないという枠組みでした。休むとしても、誰かは受け入れる。その誰かを考えておいてください、というのが国の求めた内容です。

国の通知に「エッセンシャルワーカー」という言葉は出てきません

ここは正確に押さえておきたいところです。事務連絡で使われている表現は、次のものでした。

  • 医療従事者
  • 社会の機能を維持するために就業を継続することが必要な者
  • ひとり親家庭などで仕事を休むことが困難な者

「エッセンシャルワーカー」という言葉は、この時期に社会に広まった呼び方であって、通知の用語ではありません。国が示したのは、名称ではなく「どういう人か」という説明でした。

そして、ここが実務上の難所になります。「社会の機能を維持するために就業を継続することが必要な者」が具体的に誰なのかは、園が判断することになるからです。

ところが、公的なBCPひな形にこの記載はほとんどありません

保育園のBCP(業務継続計画)を作るとき、多くの園は公的なガイドラインやひな形を参照します。そこで、実際に調べてみました。調べたのは「エッセンシャルワーカー」「医療従事者」「登園自粛」の3語です。

調べた資料3語の出現回数
児童福祉施設における業務継続ガイドライン(令和4年3月・54ページ)すべて0回
同・調査研究報告書(83ページ)すべて0回
公開されている保育所BCPの実例A(6ページ)すべて0回
公開されている認定こども園BCPの実例B(21ページ)すべて0回

いずれにも一度も出てきませんでした。「原則開所」「優先的に受け入れ」といった語も同様です。

ガイドラインが扱っているのは、感染症や災害が起きたときの「非常時に優先的に実施する業務の整理」です。これはこれで重要な項目ですが、「誰の子どもを優先して受け入れるか」という視点は、標準的なひな形には含まれていないと考えられます。

ひな形をそのまま埋めていくと、この論点は抜け落ちる可能性があります。

BCPに書いておくべき3つのこと

当事務所では、保育園のBCPを策定する際に、この受入れ方針を独立した項目として盛り込んでいます。実際の構成は次の3つです。

① 定義と判定基準

まず「誰を指すのか」を、園の言葉で定義します。特措法等の枠組みに沿って、次の2つをいずれも満たす保護者、という形にすると判断しやすくなります。

要件内容
業務の重要性社会機能の維持、または市民生活・生命の継続に直結する業務に従事していること
現場出勤の不可欠性現場出勤や緊急対応が必須で、在宅勤務や休業による対応ができないこと

2つ目の要件が要です。職種だけで決めると、在宅勤務が可能な人まで含まれてしまいます。「その仕事が重要か」だけでなく「現場に出ないと成り立たないか」を見る、という設計です。

② 対象となる職種分野

定義だけでは現場が迷うので、分野を例示しておきます。

分野
医療・保健・福祉など医師、看護師等の医療従事者、介護・福祉職員、保健所職員など
公安・防災・行政など警察、消防、自衛隊、自治体の災害・危機管理・児童福祉担当者など
インフラ・
物流・通信
電力・ガス・上下水道、交通・運送・物流、通信・ITの維持管理要員など
生活必需品・社会基盤食品等の供給・販売、金融窓口・基幹システム、廃棄物処理、他園の保育従事者など

最後の「他園の保育従事者」は、実務上とても大事です。保育園が閉まると、保育士が働けなくなり、別の園も閉まります。保育そのものが社会機能の一部だという認識を、計画に残しておく意味があります。

③ 該当判定の取扱い

観点取扱い
世帯単位
での判断
原則として両親(ひとり親家庭はその親)とも該当する場合を対象とし、家庭保育が可能な場合は協力を要請する
職務内容
での判断
同一の勤務先でも現場対応者に限り、在宅可能な事務職等は対象外とする
柔軟な対応形式的に該当しない場合でも、社会的影響等を勘案して園長が個別に判断する。ひとり親家庭等には受入れ順位において配慮する

この3つ目が、実際にはいちばん効きます。すべてを事前に決めきることはできません。だからこそ「最終的には園長が個別に判断する」と明記しておく。そうすることで、例外対応が「その場しのぎ」ではなく計画に沿った判断になります。

いちばん揉めるのは「同じ勤務先でも人による」ところ

たとえば同じ病院に勤めていても、病棟の看護師と、在宅勤務が可能な事務職では扱いが変わります。同じ運送会社でも、ドライバーと本社の管理部門では違います。

この線引きを、混乱の最中に、電話口で、園長先生が一人で説明するのは相当に苦しいと思われます。保護者にしてみれば「うちは対象外なんですか」という話になるからです。

先に決めて、書いておく。それだけで説明の質が変わります。「園の方針としてこう定めています」と示せるかどうかは、実務上かなり大きな差です。

書いておくと、現場が守られます

  • 園長が、その場で線引きを迫られない——判断の根拠が計画にある
  • 保護者への説明が一貫する——担当者によって答えが変わらない
  • 職員が迷わない——問い合わせを受けたときに「計画ではこうなっています」と答えられる
  • 市町村との相談がしやすい——園の考えを示したうえで協議できる

BCPは、災害のときに読む書類ではありません。災害のときに読まなくて済むように、平時に決めておくものです。受入れ方針は、その典型だと考えています。

よくあるご質問

Q. 次の感染症でも、同じように「原則開所」になりますか?
A. 断定はできません。コロナ禍の事務連絡はその時点の対応方針であり、感染症の性質や状況によって判断は変わり得ます。ただし「保護者が働いていて、子どもが一人で家にいられない」という保育所の性格そのものは変わりませんので、同種の要請が出る可能性は想定しておくのが現実的だと考えます。

Q. 受入れの範囲は、園が勝手に決めてよいのですか?
A. 最終的には市町村との協議になります。国の事務連絡でも「都道府県とも相談の上、検討いただきたい」とされていました。ただし協議のためにも、園としての案を持っている必要があります。何も決めていない状態で相談を始めるのは効率が悪いためです。

Q. 自然災害のときも同じ考え方ですか?
A. 考え方は共通しますが、状況は異なります。災害時は園舎の被災状況や職員の参集可否が前提になるため、感染症のように「開けられるが縮小する」という選択肢が取れない場合があります。BCPでは感染症と自然災害を分けて書いておくほうが実用的です。

Q. ひな形に項目がないのに、書き足してよいのですか?
A. 差し支えありません。ひな形はあくまで参考様式で、園の実情に応じて項目を追加することが想定されています。むしろひな形に無い項目を足せているBCPは、実際に考えて作った証拠にもなります。

Q. 職員自身の子どもはどうなりますか?
A. これも書いておく価値のある論点です。職員の子どもの預け先が確保できなければ、園は開けられません。平時から系列園や近隣施設と調整しておくことを、計画に位置づけておく方法があります。

まとめ

  • コロナ禍で、保育園は「原則として開所」を求められていた
  • 休園する場合でも、医療従事者・社会機能維持に必要な人・ひとり親家庭などの子どもの受入れ検討を求められていた
  • 国の通知の表現は「エッセンシャルワーカー」ではなく、「社会の機能を維持するために就業を継続することが必要な者」
  • 誰が該当するかの判断は、園に委ねられる部分が大きい
  • 公的なBCPひな形には、この受入れ方針の記載がほとんど見当たらない
  • だからこそ、定義・職種分野・判定の取扱いをBCPに書いておく意味がある

BCPの受入れ方針でお困りの方へ

ひな形に項目がないものを自力で書き足すのは、簡単ではありません。

  • BCPは作ったが、受入れ方針の項目が入っていない
  • 誰を対象にするか、どこで線を引けばいいか分からない
  • 保護者にどう説明するか、文面まで含めて整えたい
  • 感染症と自然災害で、書き分けができていない

当事務所では、保育園のBCPにエッセンシャルワーカーの受入れ方針を盛り込んだ策定実績があります。定義・職種分野・判定基準・園長判断の余地まで、実際に運用できる形でお作りしています。

消防職員として20年間の現場経験と、行政書士・防災士・救急救命士の専門知識を活かし、保育園・認定こども園のBCPを策定から訓練、その後の見直しまで一貫してサポートしています。すでにお持ちのBCPを拝見して、手を入れたほうがよい項目をお伝えすることも可能です。

ご相談はすべて無料です。「BCPってなに?」という入門セミナーも無料で実施しております(30〜60分/ご訪問・オンラインどちらも可/5名〜)。

06-7777-6575 初回相談無料 / 受付時間 8:00〜18:00

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この記事の根拠

  • コロナ禍での原則開所の要請──厚生労働省子ども家庭局保育課 事務連絡「新型コロナウイルス感染症防止のための学校の臨時休業に関連しての保育所等の対応について」(令和2年2月27日)。小中高が一斉休業となるなかでも、保育所等は一斉休業の対象外とされました
  • 保育所等のBCP──児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第9条の3(努力義務・令和5年4月1日施行)
  • BCPに書く内容──こども家庭庁「児童福祉施設における業務継続ガイドライン」(令和4年3月31日)第5章「施設別のポイント」に、保育所の非常時の開所等の検討・判断についての記載があります

記載は2026年8月時点の情報です。指導監査基準は自治体ごとに定められているため、御園の所在市の基準をご確認ください。

受入れの方針をどの計画に書くかで迷ったときは、保育園の安全計画との書き分けもあわせてご確認ください。

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