保育園の避難確保計画|対象になる園の条件と、届出・訓練報告までの流れ

この記事の要点(3行)
①避難確保計画は、市町村の地域防災計画に名前が載っている園だけに課される義務です。
②義務は4つ。1.作成 2.市町村への報告 3.訓練の実施 4.訓練結果の報告。令和3年の法改正で、訓練結果の報告が加わりました。
③作っていないと、市町村長から指示を受け、従わなければ公表されることがあります。

※ この記事は保育園(保育所)・認定こども園・地域型保育事業所を対象としています。以下、まとめて「保育園」と表記します。

園に必要な計画のなかで、避難確保計画だけは性格が違います。すべての園に必要なわけではなく、該当する園にだけ、法律上の義務として課される計画だからです。

そして該当する園にとっては、5つの計画のなかでもっとも「行政とのやりとり」が多い計画でもあります。作って終わりではなく、提出し、訓練し、その結果まで報告することが法律で求められています。

この記事では、自園が対象かどうかの調べ方から、届出・訓練報告までの流れを整理します。

避難確保計画は「該当する園だけ」の計画です

対象になるのは、市町村地域防災計画に名称と所在地が定められた要配慮者利用施設です。保育園は児童福祉施設として要配慮者利用施設に含まれます。

ここが誤解されやすいところです。「浸水想定区域に入っているから対象」ではなく、「市町村が地域防災計画に載せたから対象」です。順番はこうなります。

  1. 国・都道府県が浸水想定区域や土砂災害警戒区域を指定する
  2. 市町村が、その区域内にある要配慮者利用施設を地域防災計画に名前で記載する
  3. 記載された施設の管理者に、計画の作成・報告・訓練・報告の義務が生じる

自園が対象かどうかの調べ方

もっとも確実なのは、市町村の防災担当課に施設名を伝えて聞くことです。多くの市町村は、対象施設の一覧を公表しています。高槻市のように「要配慮者利用施設一覧」をホームページで公開している市もあります。

参考までに、高槻市が示している対象の基準は次のとおりです。市町村ごとに基準は異なりますので、必ず自園の所在市町村にご確認ください。

災害対象となる立地
洪水対象河川の浸水想定区域内で、想定浸水深が0.5m以上の区域に施設の一部でもかかる場合
洪水家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流・河岸侵食)内に施設がある場合(敷地を含む
土砂災害土砂災害警戒区域内に施設がある場合(敷地を含む

出典:高槻市「水防法・土砂災害防止法に係る要配慮者利用施設の避難確保計画 作成の手引き」(令和8年5月修正)

「園舎は外れているが、園庭がかかっている」場合も対象になり得ます。敷地を含めて判定されるためです。

対象になると、義務は4つあります

義務内容(根拠)
①作成避難確保計画を作成する(水防法第15条の3第1項)
②報告作成したら遅滞なく市町村長へ報告する。変更したときも同じ(同第2項)
③訓練計画で定めるところにより避難訓練を実施する(同第5項)
④結果報告訓練の結果を市町村長へ報告する(同第5項)

土砂災害防止法(第8条の2)にも、同じ構造の規定が置かれています。自衛水防組織の設置は努力義務です(水防法第15条の3第7項)。

このうち④訓練結果の報告は、令和3年5月の法改正で義務になった、比較的新しい項目です。それ以前に計画を作った園では、「訓練はしているが報告はしていない」という状態が起こりがちです。

作らないでいると、公表されることがあります

水防法には、次の規定があります。

第3項 市町村長は、計画を作成していない場合において必要があると認めるときは、必要な指示をすることができる
第4項 指示を受けた者が、正当な理由がなく指示に従わなかったときは、その旨を公表することができる

保育園にとって、公表は減算よりも重い話です。保護者が見る場所に「計画を作っていない園」として名前が出る可能性がある、ということだからです。

計画に書く事項は、法令で決まっています

水防法施行規則第16条は、避難確保計画に定めるべき事項を挙げています。

定める事項具体的に書くこと
①防災体制体制の区分、体制を確立する基準、区分ごとの活動内容と対応要員
②避難誘導避難場所、避難経路、避難誘導の方法
③施設整備情報収集・伝達と避難誘導に使う資機材
④教育訓練職員への防災教育と訓練の実施時期・内容
⑤自衛水防自衛水防組織を置く場合のみ。業務の内容と、構成員に対する教育・訓練の実施時期

出典:水防法施行規則第16条。土砂災害防止法施行規則第5条の2にも同様の規定があります(自衛水防組織の項を除く4項目)。

逆に言えば、この5つが書かれていれば、様式は問われません。市町村の様式に手書きで記入しても構いませんし、既にある計画に書き足す形でも認められます。

ゼロから作らなくてよい ── 既存の計画に追記する方法

国土交通省の手引きは、消防計画に6つの事項を追記することで避難確保計画とする方法を示しています。園にすでにある計画を活かせるので、実務的にはこれがいちばん現実的です。

  1. 計画の目的に「洪水時の避難の確保」を追記する
  2. 自衛水防組織の項目を追加する(自衛消防組織など既存の枠組みの活用も可)
  3. 洪水時の防災体制の項目を追加する
  4. 洪水時の避難誘導の項目を追加する(震災時と避難場所・経路が同じなら引用でよい)
  5. 避難の確保を図るための資機材を追加する(不足分だけでよい)
  6. 洪水を想定した防災教育・訓練の項目を追加する

出典:国土交通省「要配慮者利用施設の避難確保計画の作成等の義務化について」

高槻市の手引きも、「非常災害計画や消防計画など施設独自の様式で作成しても問題ない。ただし手引きで求められる項目は反映すること」としています。園にある計画を1本増やすのではなく、1本に足すという発想で構いません。

保育園でいちばん考えるべき欄は「事前休業の判断」

避難確保計画の様式には、事前休業(休園)の判断を記載する欄があります。定めている場合に記入する欄ですが、保育園にとってはここがもっとも重い判断です。

  • 何時までに判断するか(開園時間までに決める必要があります)
  • 何をもって判断するか(警報の種類、警戒レベル、河川の水位など)
  • どの業務を休止するか(全面休園か、延長保育のみ中止か)
  • 決めた後、誰が、どの手段で保護者に伝えるか

災害が近づいてから「開けるか閉めるか」を考え始めると、必ず判断が遅れます。基準を先に決めて紙に書いておくことが、そのまま園長先生を守ります。

提出から訓練報告までの流れ

高槻市が示している手順は次のとおりです。市町村によって窓口や様式は異なりますが、流れはおおむね共通しています。

  1. 手引きと様式にそって計画を作成する(手書きでも可
  2. 案の段階で市に相談し、不明点を確認する
  3. 内容の確認が取れたら、本編のみを提出する
  4. 計画を職員・利用者と確認し、防災訓練を実施する
  5. 訓練実施後、訓練実施報告書を提出する

ポイントはです。避難確保計画には本編と資料編があり、資料編(防災体制一覧表・緊急連絡網・利用者の緊急連絡先など)は個人情報を含むため提出不要とされています。園児と保護者の連絡先が入った書類を、そのまま行政に出す必要はありません。

出典:高槻市「避難確保計画 作成の手引き」(令和8年5月修正)

訓練報告書に書くこと

訓練実施報告書の様式は市町村が用意しています。高槻市の様式では、次の項目を記入します。

  • 法人名・施設名・所在地・事業種別
  • 担当者(役職・氏名)・電話番号
  • 訓練実施日時
  • 訓練の種別(防災教育/情報伝達訓練/避難訓練/その他から選択)
  • 訓練の概要
  • 参加人数・参加機関

ここで注目していただきたいのは、種別に「防災教育」と「情報伝達訓練」が含まれていることです。園庭に避難する訓練だけが対象ではありません。職員向けに水害の研修を行った、警報が出たと仮定して連絡網を回してみた——それも報告できる訓練です。

そして高槻市の手引きは、この防災教育・訓練について「毎年実施してください」としています。年1回、毎月の避難訓練のうち1回を水害・土砂災害の想定にあてれば、実質的な負担はほとんど増えません。年間の訓練計画の立て方は保育園の安全計画で解説しています。

「前は対象じゃなかった」は通用しません

浸水想定区域は、見直されます。そして見直されるたびに、対象となる施設が入れ替わります

高槻市の例では、令和8年3月に芥川(国直轄区間)の洪水浸水想定区域図が見直され、浸水区域と浸水深が拡大したことを受けて、対象となる要配慮者利用施設が見直されています。令和2年にも、大阪府が想定最大規模降雨に基づく区域図へ見直したことで同じことが起きています。

つまり、数年前に「対象外です」と言われた園でも、いまは対象になっている可能性があります。ハザードマップが更新されたという知らせを見たら、そのつど自園の該当を確認してください。

【現場からのひとこと】

消防職員として20年間、災害現場に出てきました。水害でいちばん多いのは、「まだ大丈夫だと思う」ことです。避難には大きな労力が生じます。また避難して何もなければ無駄骨になる。周りが避難していなければ避難することがためらわれます。

地震との揺れとは違い、水害には猶予があります。だからこそ、判断を先送りできてしまう。雨は降り続いているのに、園はまだ動いていない。そして道路が冠水してから、避難しようとして動けなくなる。また一方で水害は地震より避難が困難となる可能性が高い災害です。地震は大きな揺れが発生している時間帯が災害のピークです。しかし水害は時間を追う毎に水位が増す。また豪雨による災害では避難時ももちろん雨が降っています。浸水の発生後に避難は困難となるため、先読みした対応がより重要です。

避難確保計画がほかの計画と違うのは、「いつ動き出すか」を数字と情報名で先に決めさせるところです。警戒レベル3で誰が何をするか。この河川のこの水位で体制を上げる。それを平時に決めておけば、当日は判断ではなく確認で済みます。

面倒な書類に見えるかもしれませんが、実際に園を守るのは、この一枚です。

いま確認しておきたい10項目

  • 自園が市町村地域防災計画に載っているかを確認したか
  • 園舎だけでなく敷地(園庭)で該当を確認したか
  • 避難確保計画を作成しているか
  • 作成後(変更後)、市町村へ報告したか
  • 計画に5つの事項(防災体制・避難誘導・施設整備・防災教育訓練・自衛水防組織)が入っているか
  • 事前休業(休園)の判断基準を決めてあるか
  • 計画に基づく訓練を毎年実施しているか
  • 訓練実施報告書を市町村へ提出しているか
  • ハザードマップの更新後、該当の有無を再確認したか
  • 消防計画・非常災害対策計画と内容が矛盾していないか

よくあるご質問

Q. 自園が対象かどうか、どこで分かりますか?
A. 市町村の防災担当課にお問い合わせください。市町村地域防災計画に名称・所在地が定められているかどうかで決まります。多くの市町村が対象施設の一覧やハザードマップを公表しています。

Q. 浸水想定区域に入っていれば、必ず対象ですか?
A. 対象になるのは、市町村地域防災計画に名称と所在地が定められた施設です。市町村が浸水深などの基準で指定します。高槻市の場合は想定浸水深0.5m以上などの基準が示されています。

Q. 非常災害対策計画や消防計画があれば、それで足りますか?
A. 様式は問われませんが、法令が定める事項が反映されている必要があります。国土交通省は消防計画に6つの事項を追記する方法を示しています。既存の計画に足す形で問題ありません。

Q. 訓練は年に何回必要ですか?
A. 法律に回数の明示はありませんが、高槻市の手引きは毎年実施することを求めています。毎月の避難訓練のうち1回を水害・土砂災害の想定にすれば、それを充てることができます。

Q. 訓練の報告を出していませんでした。どうすればよいですか?
A. 訓練結果の報告は令和3年の法改正で義務化された項目で、見落としている施設は少なくありません。まずは市町村の窓口に連絡し、様式を確認して次回分から提出してください。

Q. 園児の緊急連絡先まで市町村に提出するのですか?
A. 高槻市の場合、提出するのは本編のみです。緊急連絡網や利用者の緊急連絡先を含む資料編は、個人情報を含むため提出不要とされています。取扱いは市町村にご確認ください。

Q. 自衛水防組織は作らなければいけませんか?
A. 設置は努力義務です(水防法第15条の3第7項)。設置した場合は構成員などを市町村長へ報告します。既にある自衛消防組織を活用する方法も国の手引きで認められています。

まとめ

  • 対象は市町村地域防災計画に名前が載っている園。園庭がかかるだけでも対象になり得る
  • 義務は作成・報告・訓練・訓練結果の報告の4つ。自衛水防組織は努力義務
  • 未作成なら市町村長の指示、従わなければ公表があり得る
  • ゼロから作らず、消防計画・非常災害対策計画に6事項を追記してよい
  • 保育園でいちばん大事な欄は事前休業(休園)の判断
  • 浸水想定区域は見直される。「前は対象外」は通用しない

この記事の根拠資料

本記事の記述は、次の資料に基づいています。数値や条項を実務でお使いになる際は、原文をご確認ください。

  • 水防法第15条・第15条の3、水防法施行規則第16条
  • 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 第8条・第8条の2、同施行規則第5条の2
  • 国土交通省「要配慮者利用施設の避難確保計画の作成等の義務化について」
  • 国土交通省「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き」(令和4年3月)
  • 高槻市「水防法・土砂災害防止法に係る要配慮者利用施設の避難確保計画 作成の手引き」(平成30年3月/令和8年5月修正)、同 本編様式・資料編様式・訓練実施報告書様式
  • 高槻市「要配慮者利用施設一覧」(令和8年3月31日現在)

本記事は制度の概要を整理したものです。対象の判定・様式・提出先は市町村によって異なりますので、個別の判断は所管の窓口にご確認ください。

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  • 様式はあるが、防災体制の欄が埋まらない
  • 事前休業(休園)の判断基準をどう決めればよいか分からない
  • 作ったが、訓練の報告を出していない
  • 消防計画・非常災害対策計画とまとめて整理してほしい

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