保育園のBCPの作り方|5つのステップでやさしく解説

この記事の要点(3行)
・保育園のBCP(業務継続計画)は令和5年から努力義務。必要書類は複数だが重複が多く、一体で考えればよい。
・作り方は5ステップ=①園のリスクを知る ②組織体制 ③連絡の多重化 ④備蓄と避難 ⑤感染症対応。
・感染症対策の土台は「標準予防策(スタンダードプリコーション)」と手洗い。完璧より「使えるBCP」を

「BCPを作らなきゃいけないのはわかった。でも、何から手をつければいいのかわからない?」
「忙しくて後回しになっている。」
「BCPを策定はしたが、正解がわからない。行政に聞いても明確に答えてもらえない。」

前回の記事では、保育園にBCPが必要な理由と義務化の背景をお伝えしました。今回は「具体的にどう作るのか」を、5つのステップで解説します。

専門用語はできるだけ使わず、「うちの園でもできそう」と思っていただける内容を目指しました。

そもそも、何を作ればいいの? ── 必要な書類の全体像

まず最初に知っておいていただきたいのが、「BCP」とひとことで言っても、安全や防災で保育園が揃えるべき書類は1つではないということです。

保育園にはどんな書類が必要?

書類内容根拠法令
非常災害対策計画避難場所・避難経路・判断基準児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第6条
避難確保計画水害時の避難行動(浸水想定区域内の施設)水防法 第15条の3
業務継続計画(BCP)被災後も保育を継続・再開するための計画令和5年4月〜 努力義務
安全計画事故防止・安全確保の年間計画令和5年4月〜 義務

「え、こんなにあるの?」と驚かれるかもしれません。でも安心してください。実はそれぞれの計画で重複している部分がかなりあります。

大切なのは「別々の書類を4つ作る」ことではなく、「自分の園のリスクと対策を一度しっかり整理すること。」です。ここが本質です。それができれば、各書類への落とし込みはスムーズです。

BCPのひな形、どれを使えばいい?

「ひな形がたくさんあって、どれを使えばいいかわからない」というのも、よくあるご相談です。各行政庁がひな形を整理しました。

主なひな形の比較

雛形の出典感染症自然災害特徴
こども家庭庁(児童福祉施設向け)感染症と自然災害が1冊にまとまった公式ひな形。保育園にそのまま使える
厚生労働省(介護施設向け)感染症編・自然災害編が分冊。記入例も充実。用語の読み替えが必要
大阪市(保育所向け)×防災に特化。浸水深やハザードマップの記載が多い。避難確保計画の要素が強い。
大阪府(超簡易版BCPシート)A3用紙1枚で完成。まず1枚作ってみたい園におすすめ

個人的に保育園へのお勧めは、こども家庭庁のひな型をベースにすることです。

保育園(児童福祉施設)向けに作られた公式ひな形で、感染症・自然災害の両方をカバーしています。自治体への提出時にも「こども家庭庁のひな形を使用している。」と説明できるので安心です。

水害リスクの高い大阪市などでは、大阪市の様式で避難確保計画を別途作成し、BCPと一体運用するのもお勧めです。

【5ステップ】保育園BCPの作り方

ここからが本題です。BCPの策定を、5つのステップに分けて解説します。

※南海トラフ地震に関するハザードマップの例/岸和田市ホームページから引用

ステップ1:自分の園のリスクを知る

BCPの出発点は、「うちの園は、どんな災害に遭う可能性があるのか?」を知ることです。

ハザードマップを確認する

お住まいの自治体のホームページで「ハザードマップ」を検索してください。確認すべきは以下の4つです。

確認項目見るべきマップチェックポイント
洪水洪水ハザードマップ近くの川が氾濫したとき、園は浸水するか?深さは?
高潮高潮ハザードマップ沿岸部の園は要確認。3m以上なら3階への垂直避難が必要
内水氾濫内水氾濫マップゲリラ豪雨で道路が冠水するリスクは?
地震・津波ハザードマップポータル(国交省)想定震度、液状化リスク、津波到達予想

💡 ポイント
大阪市においては「マップナビおおさか」や「ハザードマップポータルサイト(国土交通省)」を使えば、住所を入力するだけで自園のリスクを一覧で確認できます。

感染症リスクの洗い出し

保育園で想定すべき感染症は、主に以下の3つです。

  • 新型コロナウイルス感染症(再流行の可能性)
  • インフルエンザ(毎冬の流行)
  • ノロウイルス・ロタウイルス等(嘔吐・下痢の集団発生)

「どの感染症が流行したら、クラス閉鎖や休園の判断をするのか?」を事前に決めておくことが大切です。保育園に関しては行政との連携が重要です。感染拡大状況と開園や閉園の判断や規定を再度確認してください。

ステップ2:組織体制を決める ── 「誰が何をするか」

災害が起きたとき、一番困るのは「誰が指示を出すのかわからない」状態です。

最低限決めておくべき4つの役割

役割担当(例)主な業務
本部長(総括)園長全体の指揮、休園・再開の判断
情報担当副主任行政・保護者への連絡、情報収集
現場担当主任保育士園児の安全確保、避難誘導
生活担当調理師リーダー食事の確保、備蓄品の管理

💡 ポイント:「園長がいないとき」を必ず決める

地震は園長が出張中に起きるかもしれません。「園長不在時は副主任が指揮をとる。副主任も不在のときは主任保育士が代行する。」という代行ルールを、全職員が知っている状態にしておきましょう。また3段階に下までの代行ルールを策定することを推奨します。大規模災害では、組織のトップ2人が不在となる可能性は少なくありません。これだけで初動が格段に変わります。

ステップ3:連絡体制を「多重化」する ── 1本に頼らない

大規模災害では、電話もLINEも使えなくなることがあります。連絡手段を1つに頼るのは危険です。

職員への連絡:5段階フェイルオーバー

「フェイルオーバー」とは、「1つ目がダメなら2つ目、2つ目もダメなら3つ目」と自動的に切り替える仕組みのことです。以下は一つの例ですが「連絡体制は複層化しつつ、最後はアナログ手段を確保する!」これが鉄則です。

優先順位手段ポイント
第1LINE公式アカウント日常使いしているツールを有事にそのまま使う
第2メール一斉送信LINEサーバー障害時の代替手段
第3SMS(ショートメッセージ)音声通話より繋がりやすい
第4災害用伝言ダイヤル171毎月1日・15日に体験練習できる
第5自主参集+園舎掲示板全デジタル手段が使えないときの最終手段

保護者への連絡:7段階の多重化

保護者向けはさらに手段を増やします。

優先順位手段
第1連絡帳アプリ(ICTシステム)
第2LINE公式アカウント(保護者向け)
第3Instagram
第4Googleビジネスプロフィール
第5メール一斉送信
第6クラス別電話連絡網
第7園舎・避難先への掲示

💡 なぜInstagramとGoogleビジネスプロフィール?

InstagramはLINEとサーバーが異なるため、LINEが落ちても使える可能性があります。Googleビジネスプロフィールはアプリ不要で、「園名」を検索するだけで最新情報が表示されるのが最大の強みです。スマートフォン一つで情報発信が可能です。被災外に移動しつつ、電波の届く基地局を経由しての利用も想定できます。またログインも難しくなく。まさに「最後の砦」になり得ます。

ステップ4:備蓄と避難を計画する

備蓄品の目安:職員数×3日分

品目1人あたり30名の園の場合
飲料水1日3L × 3日 = 9L270L
食料1日3食 × 3日 = 9食270食
簡易トイレ1日5回 × 3日 = 15回450回分

備蓄食料を選ぶときは、アレルギー対応食を必ず含めてください。 給食で乳・卵・小麦を除去している園は、備蓄でも同じ対応が必要です。

💡 ローリングストック方式がおすすめ
「買って置きっぱなし→気づいたら期限切れ」を防ぐために、普段から少しずつ使い、使った分を買い足す「ローリングストック」方式がおすすめです。また訓練などで実際に備蓄品を使用することをお勧めします。使い慣れておくことが大切です。

避難方法は年齢別に

年齢避難方法
0歳児避難車(バギー)に乗せて避難。職員2名で対応
1〜2歳児避難車、または職員が手をつないで誘導
3〜5歳児防災頭巾を着用し、2列で徒歩避難

💡 靴の確保を忘れずに!
保育園の先生がずっと園児さんを抱えて避難する距離には限界があります。また両手がふさがってしまうため備蓄品の持ち出しも難しくなります。必然的に園児が歩くこととなるので靴は必ず持ち出してください。「靴は必ず!」です!

テップ5:感染症対応を決める

自然災害のBCPに比べて、見落とされがちなのが感染症のBCPです。

令和5年のBCP策定努力義務化では、感染症への対応も求められています。

感染対策の土台は「標準予防策(スタンダードプリコーション)」

感染症対応というと難しく聞こえますが、土台になる考え方はとてもシンプルです。それが標準予防策(スタンダードプリコーション)です。

これは、「すべての人の血液・体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚は、感染の可能性があるものとして扱う」という、医療・救急の現場で使われる感染対策の基本ルールです。相手が感染しているかどうかに関わらず、"誰に対しても同じ基本対策をとる"のがポイント。保育園でできることは、特別なことではありません。

  • 手洗い・手指消毒 … 食事・排泄・嘔吐物処理などのケアの前後で必ず。最も効果的で、すべての土台です。
  • 手袋・マスク・エプロンの使い分け … 嘔吐物・排泄物・血液に触れるときは使い捨て手袋を。
  • 咳エチケット … 職員から広げない。
  • 嘔吐物・排泄物の正しい処理 … 塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)で。
  • よく触る場所の消毒 … ドアノブ・おもちゃなど。

難しく考えず、まずは「手洗いの徹底」から。ここができていれば、多くの感染症は大きく防げます。

【現場からのひとこと】
私はCOVID-19の流行期、救急隊として感染の疑いがある患者さんを毎日のように搬送していました。世の中が恐怖に包まれる中で確信したのは、正しい知識を持ち、標準予防策と手洗いを徹底すれば、感染症は過度に恐れる相手ではないということです。最前線で"感染症と闘えた"この経験が、私が感染症対策をお伝えするうえでの自信の根拠になっています。

感染拡大の段階に応じた対応

段階状況園の対応
平時感染者なし体調管理、備品の備蓄、職員研修
第1段階地域で流行開始検温強化、消毒頻度を増やす、保護者への注意喚起
第2段階園内で感染疑い疑い者の隔離、保護者へ連絡、保健所へ相談
第3段階園内で感染者確定クラス閉鎖の判断、ゾーニング実施、濃厚接触者の特定
第4段階複数クラスに拡大休園の判断、行政への報告、職員のシフト再編
回復期感染者が減少段階的に通常保育へ復帰、保護者へ再開の連絡

ゾーニングの基本

ゾーニングとは、感染の疑いがある子と元気な子の生活空間を分けることです。

  • 隔離スペース:事務室隣の部屋などを指定
  • 動線を分ける:隔離スペースと保育室の入口・トイレを分離
  • 着脱エリア:ガウン・手袋の着脱場所を入口に設置

難しく考えず、「体調の悪い子が過ごす部屋を1つ決めておく」ことから始めましょう。

「完璧なBCP」より「使えるBCP」を

ここまで読んで、「やっぱり大変そう…」と感じた方もいるかもしれません。

でも、大事なことをお伝えします。

BCPは、100点を目指す書類ではありません。

最初は空欄があっても構いません。ひな形のすべてを埋めなくても構いません。大切なのは、

  • 「うちの園では、地震が起きたら誰が何をするか」が決まっていること
  • 「連絡がつかないとき、次にどうするか」が全員わかっていること
  • 「感染症が出たとき、どの部屋に隔離するか」が共有されていること

この3つだけでも決まっていれば、それは立派なBCPです。

そして、BCPは一度作ったら終わりではありません。 年に1〜2回の訓練で試してみて、「ここはうまくいかなかったね」「この連絡方法は使いにくかったね」と見直していく。このPDCAサイクルこそがBCPの本質です。

道才竜進が保育園で行うBCP・防災研修の様子(プロジェクターで解説)

よくある質問(FAQ)

Q. 保育園のBCP(業務継続計画)は義務ですか?
A. 令和5年4月から策定が努力義務化されています(あわせて「安全計画」は義務)。努力義務でも、監査・補助金・保護者への説明責任の観点から、実質的に整備が求められています。

Q. 保育園のBCPは何から作ればいいですか?
A. まず自園のハザードマップで災害リスクを確認し、次に「組織体制→連絡体制→備蓄・避難→感染症対応」の順に決めます。こども家庭庁の公式ひな形をベースにすると迷いません。

Q. BCPの雛形はどれを使えばいいですか?
A. こども家庭庁の児童福祉施設向け公式ひな形がおすすめです。水害リスクが高い地域(大阪市など)では、自治体の様式も併用します。

Q. 感染症対策で最も大切なことは何ですか?
A. 「標準予防策(スタンダードプリコーション)」と手洗いの徹底です。すべての人の血液・体液などを感染の可能性があるものとして扱う考え方が土台になります。

Q. BCPは完璧に作らないといけませんか?
A. いいえ。最初は空欄があっても構いません。「誰が指揮をとるか・連絡手段・避難先」の3つが決まっていれば立派なBCPです。年1〜2回の訓練で育てます。

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この記事を書いた人 — 道才 竜進(どうさい りょうしん)
行政書士道才事務所 代表|行政書士・防災士・救急救命士

消防士として20年間、救急・災害の現場に従事(東日本大震災の対応経験あり)。その実務経験を活かし、行政書士として独立。現在は「防災士×行政書士」として、大阪を拠点に保育園・福祉施設・医療機関(クリニック・歯科)・建設業のBCP(事業継続計画)策定を、施設訪問からリスク評価・策定・訓練・顧問まで伴走型で一貫サポートしています。

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