保育園のBCPとは?義務化の背景と策定すべき本当の理由

この記事でわかること

  • 保育園のBCP(事業継続計画)とは何か
  • なぜ保育園にBCPが求められるようになったのか
  • 義務だからではなく、BCPが保育園の「信頼」を守る最強の武器になる理由

保育園を取り巻く環境の変化

民間参入で変わった保育の風景

2000年、保育所の設置主体制限が撤廃され、株式会社やNPOなど民間企業の保育事業への参入が可能になりました。

それまで保育園は主に自治体や社会福祉法人が運営するものでしたが、規制緩和により認可外保育施設や企業主導型保育事業所が次々と誕生。さらに公設民営方式で運営される園も増え、保育の担い手は大きく多様化しました。

2012年には「子ども・子育て関連3法」が成立し、保育所の供給がさらに加速。待機児童ゼロを目指す政策のもと、保育園の数は急速に拡大してきました。

少子化と待機児童問題の「同時進行」

日本は少子化が進む一方で、共働き世帯の増加により保育ニーズはむしろ高まっています。政府は保育園を「経済を支えるインフラ」と位置づけ、量の拡大と質の向上を同時に求めています。

つまり、保育園はもはや「子どもを預かる場所」ではなく、社会経済を支える重要な公共インフラです。だからこそ、災害時にも事業を継続できる体制=BCPが求められているのです。

安全への意識を変えた重大事故

2019年5月、滋賀県大津市で保育園児の散歩中に交通事故が発生し、2歳の園児2名が命を落とし、14名が重軽傷を負いました。この痛ましい事故は全国に衝撃を与え、保育園の安全管理に対する社会的な関心が一気に高まりました。

この事故をきっかけに、散歩ルートの安全確認や危機管理体制の見直しが全国の保育園で進められました。BCPの必要性が広く認識されるようになった背景には、こうした安全意識の高まりがあります。

BCPとは何か?

BCP=事業継続計画

BCP(Business Continuity Plan)とは、災害や感染症などの緊急事態が発生した際に、事業の中断を最小限に抑え、速やかに復旧するための計画です。

日本語では「事業継続計画」と訳されますが、保育園の場合はもっとシンプルに言えば、「何が起きても、子どもの命を守り、保育を続けるための準備」です。

防災とBCPの違い

「防災計画はもうあるから大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、防災とBCPは似ているようで目的が異なります。

防災BCP
目的生命を守る生命を守る + 事業(保育)を継続する
範囲地震・火災・風水害災害 + 感染症 + サイバー攻撃等
視点その瞬間の対応発生前の備え → 発生時の対応 → 復旧まで

防災は「命を守る」ことに主眼を置きますが、BCPはさらにその先、「保育を止めない」「働く保護者の生活を守る」ところまでカバーします。

BCPの構成要素

  • 防災マニュアル — 地震・火災・風水害などへの具体的な対応手順
  • 非常災害対策計画 — 災害発生時の園児・職員の安全確保
  • 避難確保計画 — 浸水想定区域・土砂災害警戒区域の園が策定する避難計画
  • 安全計画 — 日常的な安全管理(散歩ルートの安全確認等を含む)
  • 感染症対策 — パンデミック発生時の保育継続体制
  • 事業復旧計画 — 施設が被災した場合の代替保育手段・復旧手順

つまり、BCPは「従来の防災計画をすべて含み、さらにその先の復旧・継続までカバーする上位概念」です。

感染症とスタッフ確保 ── コロナ禍が突きつけた現実

BCPが必要な緊急事態は、地震や台風だけではありません。2020年以降のCOVID-19の流行は、保育園に「感染症によるスタッフ不足」という深刻な問題を突きつけました。

2022年1月、オミクロン株の感染爆発により、全国で全面休園した保育所は過去最多の327カ所に達しました(厚生労働省発表)。休園の主な原因は、園児の感染ではなく、保育士が濃厚接触者となり出勤できず、人員基準を満たせなくなったことでした。

保育園は配置基準が厳格に定められており、必要な保育士数を下回ると開園できません。1人でも欠けると運営が回らない園も少なくない中で、複数の保育士が同時に出勤できなくなれば、休園せざるを得ません。

休園すれば保護者は出勤できず、社会全体に影響が波及します。BCPで「保育士が同時に複数名欠けた場合の代替体制」「系列園や近隣園との応援協定」などを事前に計画しておくことが、こうした事態を防ぐ鍵となります。

保育園のBCP義務化の流れ

内閣府ガイドラインから始まったBCPの歴史

日本におけるBCPの取り組みは、2005年8月に内閣府が「事業継続ガイドライン」を策定したことから始まりました。当初は主に民間企業を対象としたものでしたが、度重なる災害や感染症の経験を経て、福祉・保育分野にも広がっていきました。

出来事
2005年内閣府が「事業継続ガイドライン」を初めて策定
2009年新型インフルエンザ流行を契機に、福祉分野でもBCPの重要性が認識される
2013年内閣府がガイドラインを改定(東日本大震災の教訓を反映)
2020年COVID-19の世界的流行。保育園の休園・縮小運営が相次ぐ
2021年介護施設にBCP策定が義務化(経過措置3年)
2023年4月保育所等の児童福祉施設にBCP策定が努力義務化
2024年4月介護施設のBCP義務化完全施行

保育園は「努力義務」だが実質的には必須

2023年4月から、保育所を含む児童福祉施設に対して、BCP策定・研修・訓練の実施・定期的な見直しが努力義務となりました。

「努力義務だから、まだ作らなくてもいいのでは?」と思われるかもしれません。

しかし現実には、自治体の指導監査でBCPの策定状況を確認されるケースが増えています。また、認可更新や第三者評価においても、BCPの有無が評価項目に含まれるようになっています。

努力義務とは、「やらなくても罰則はないが、やっていないことが問題になり得る」ということです。

BCPは「義務だから作る」ものではない

本当の価値は「信頼の獲得」

ここからが最も大切なことです。

BCPは行政から求められているから仕方なく作るもの——そう考えていませんか?

もちろん法令遵守は重要です。しかし、BCPの本当の価値は義務を果たすことではなく、有事に対応力を見せることで得られる「信頼」にあります。

山崎製パンの教訓 ── テレビCM以上の信頼を生んだ災害対応

2011年の東日本大震災。地震発生からわずか1時間後、政府から緊急救援食糧の要請を受けた山崎製パンは、直ちに本社に緊急食糧対策本部を設置。翌日には、仙台工場が地震前までに生産していた24万個と、関東・関西の各工場で急遽増産した36万個、合計60万個のパンを被災地に届けました。

その後も自社の配送トラックで宮城県石巻市の約70カ所の避難所や気仙沼市、南三陸町の救援物資集積所に直接配送を続け、避難所が閉鎖される11月までの8カ月間で、パン約1,500万個、おにぎり約800万個、飲料約100万本を供給しました(山崎製パン公式サイトより)。

2024年1月の能登半島地震でも、政府・日本パン工業会を通じた要請を受け、名古屋工場から約4万8,000個のパンをいち早く被災地に届けました。

これは何十億円ものテレビCMでは決して手に入らない、「本物の信頼」です。震災から14年が経った今でも、「災害のときに助けてくれた企業」として語り継がれています。この信頼の根源にあるのは、「有事に備え、即座に動ける体制を平時から整えていた」という、まさにBCPの実践そのものです。

保育園にとってのBCPも同じ

大規模災害が発生したとき、保護者が真っ先に考えるのは「うちの子は大丈夫か」です。

そのとき、BCPに基づいて迅速に安否確認を行い、的確に避難を完了し、代替手段で保育を再開できた園と、何の準備もなく混乱した園。

保護者がどちらの園に子どもを預け続けたいと思うかは明白です。

BCPは「コスト」ではありません。園の信頼を守り、選ばれ続けるための最も強力な武器です。

少子化が進む中で園児の確保が課題となるこれからの時代、「安全・安心に対する本気度」を形にしたBCPは、他園との最大の差別化ポイントになります。

まとめ

  • 保育園は社会経済を支えるインフラとして、安全管理の重要性が高まっている
  • BCP(事業継続計画)は防災計画を包含し、復旧・事業継続まで計画する上位概念
  • 2005年の内閣府ガイドライン策定から始まり、2023年4月に保育所等で努力義務化
  • BCPの真の価値は「義務を果たすこと」ではなく「有事に信頼を獲得すること」
  • 災害対応力は、テレビCM以上のブランド力を生む

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防災士・救急救命士の行政書士が、保育園のBCP策定を支援します。

大阪市・堺市での策定実績あり。各自治体の様式に対応。

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