BCPは作ってからが本番|保育園で実施すべき訓練と見直しの実践

この記事の要点(3行)

・BCPは作成して終わりではなく、年1〜2回の訓練で試し、見直して初めて「使えるBCP」に育つ。

・訓練は「読み合わせ」「机上訓練」「応急手当・避難訓練」の3点セット。なかでも机上訓練が、BCPの穴を最も早く見つけてくれる。

・見直しは大掛かりに考えず、訓練のたびに「うまくいかなかったこと」を3つ書き出すだけでよい。

前回の記事「保育園のBCPの作り方|5つのステップでやさしく解説」では、ハザードマップの確認から組織体制、連絡手段の多重化、備蓄と避難、感染症対応まで、BCPをゼロから作る方法をお伝えしました。
一通りの「書類」は、これで整えられたはずです。しかし、BCPは策定して達成度は50%です。残りの50%はその運用にあります。ここで安心してはいけません。

東日本大震災後の訴訟ではマニュアルの不備や不存在だけでなく、災害時の対応も争点となっています。運用できないマニュアルは意味がありません。完璧を目指す必要はありませんが、事業所で運用できるものとするには、さらなる時間と労力を要します。

なぜ「作って終わり」が一番危険なのか

BCPを作成した直後は、詳細に内容を把握しているのは「作った本人」です、その他のスタッフは中身を把握していない状態にあります。特に保育の現場は、シフト制勤務やパート職員の存在、人材の入れ替わりの多さから、職員全員が同じ理解を持ち続けることがそもそも難しい業種です。

訓練をして初めて見えてくる「穴」があります。よくあるパターンとしては、避難時に利用するバギーの台数が実際の0歳児の人数に対して足りていなかった、連絡網に記載の電話番号が変わっていた、備蓄しているアレルギー対応食の期限が切れていた、といったケースです。これらは書類の上では正しく見えることが多く、実際に動いてみて初めて発覚します。

訓練は「3点セット」で考える

当事務所でBCP策定を支援する際も、訓練は次の3点セットで組み立てることをお勧めしています。
①で中身を頭に入れ
②で判断を試し
③で体を動かす  
この順番で積み上げていくと、書類が行動に変わります。

①読み合わせ訓練

BCPの内容を、職員全員で読み合わせます。「誰が指揮を取るか」「自分の役割は何か」を、一人ひとりが自分の言葉で説明できる状態を目指します。
新人職員が入職したタイミングでは必ず実施し、入職時オリエンテーションの一部として組み込んでおくと抜け漏れがありません。

これは訓練というより「土台づくり」です。中身を知らないまま次の机上訓練に進んでも、答えようがありません。まずはここから始めてください。

②机上訓練 ── ここが訓練の中心です

机上訓練とは、園児を動かさずに、職員が机を囲んでBCPを開きながら「この状況で、自分は何をするか」を順に答えていく訓練です。会議室と1時間程度あれば実施でき、業務をあまり圧迫しません。忙しい園でも組み込みやすいことが、最大の利点です。

進め方はシンプルです。まず「平日の午後2時、震度6弱の地震が発生」といった状況を提示します。そこから「園庭への避難は完了した」「電話もインターネットもつながらない」「午後5時になっても保護者の半数が迎えに来られない」というように、状況を少しずつ進めていきます。その各段階で、参加者に問いかけます。

  • あなたは今、何をしますか。
  • 誰に、どの手段で連絡しますか。
  • その判断は、誰がしますか。その人が不在だったら、誰が代わりますか。

この訓練の価値は、BCPの「穴」が最も安く、最も早く見つかることにあります。実際に園庭に出て行う訓練は半日がかりでも見つかる穴は1つか2つですが、机上訓練なら1時間で「その判断を誰がするのか決まっていない」「その連絡先がBCPに書かれていない」「その備品を持ち出す担当が決まっていない」といった抜けが、次々と表に出てきます。

しかも、机上訓練で出てくる穴は「判断」と「情報」の穴です。これらは実技訓練では見つかりにくく、それでいて実際の災害時に最も致命的になる部分でもあります。当事務所では、この机上訓練をBCP支援の中心に据えています。園の立地・規模・職員構成に合わせたシナリオを作成したうえで、進行役までお引き受けしています。

③応急手当訓練・避難訓練 ── 既存の訓練を活かす

3つ目は、実際に体を動かす訓練です。ここは、多くの園がすでに実施している月1回の避難訓練を、そのまま活かすことができます。BCPのために新しい訓練を一から作る必要はありません。

既存の避難訓練に、BCPの要素を少し足すだけで十分です。避難にかかった時間を計測する、「誰が何を持ち出すか」(AED、備蓄品、避難者名簿など)を実際に手に取って確認する、連絡手段が本当に使えるかを試してみる—これだけで、いつもの避難訓練はBCP訓練になります。

年齢別の避難方法(0歳児は避難車、1〜2歳児は職員が手をつないで誘導、3〜5歳児は防災頭巾を着用して徒歩避難)についても、このタイミングで実地確認しておきましょう(詳しくは前回記事「保育園のBCPの作り方」をご覧ください)。

あわせて、応急手当の訓練も組み込みます。AEDの使用方法、心肺蘇生(胸骨圧迫)、誤嚥・窒息時の対応など、子どもの事故に即した内容です。当事務所では、救急救命士としての経験を活かし、この訓練を担当しています。「知識として知っている」ことと「とっさに体が動く」ことの間には大きな差があり、その差を埋めるのがこの訓練の役割です。

年に1〜2回、いつ実施するか

訓練の頻度に法的な決まりはありません。当事務所でBCP策定を支援する際には、次のようなタイミングでの実施をお勧めしています。

  • 4〜5月(新年度):読み合わせ訓練。人事異動やクラス替えの直後に行うことで、新しい担当者にも役割が浸透します。
  • 9〜10月(防災の日前後):机上訓練と応急手当訓練。9月1日の「防災の日」に合わせて実施すると、社会全体の防災意識が高まっている時期のため、職員の参加意識も高まります。
  • 毎月の避難訓練:既存の訓練にBCPの要素を足す。時間の計測、持ち出し品の確認、連絡手段のテスト。新たに日程を確保する必要はありません。

つまり、園として新しく時間を確保するのは、実質的に年1〜2回だけです。それ以外は、すでにやっていることに少し足すだけで足ります。

訓練で「うまくいかなかったこと」を集める

訓練が終わったら、その日のうちに「うまくいかなかったこと」を、3つだけ職員から出してもらいます。多くを求める必要はありません。「休園の判断を誰がするのか決まっていなかった」「保護者への連絡が一部つながらなかった」「避難車の到着に時間がかかった」「点呼のときに人数が合わなかった」—このような具体的な気づきが、次の見直しの材料になります。
当事務所ではこの事後検証にも強みがあります。シンプルで効率のよい事後検証までお手伝いいたします。

見直しは大掛かりに考えなくていい

訓練で出てきた「うまくいかなかったこと」は、その都度BCPの該当箇所に書き足していくだけで構いません。全体を作り直す必要はなく、連絡先の更新、備蓄品リストの追加、判断者の明記、避難経路の修正など、気づいた部分を少しずつ直していく。この積み重ねが、BCPを「使えるBCP」に育てていきます。

【現場からのひとこと】

消防士として20年間、救急と災害の現場にいました。そこで何度も見てきたのは、うまくいった現場は例外なく「訓練でやったことがある現場」だったということです。また現場から逆算して実施した訓練はその後の現場で必ず活きました。消防はなぜあれほど訓練を繰り返すのか。それは、人は追い詰められると、時間をかけて考えることができなくなるからです。体が覚えていることしか、とっさには出てこない。

そして、災害時に本当に難しいのは、体を動かすことよりも「決めること」です。誰が決めるのか、何を基準に決めるのか。これが曖昧なまま現場に立つと、動けなくなります。机上訓練を中心に据えているのは、この「決める」を事前に一度でも経験しておいてほしいからです。

保育園でも同じです。地震が起きたとき、先生方はファイルを探している余裕はありません。BCPの本質を、体と頭で覚えていること。それが、書類を本当の意味で「園児の命を守るもの」に変えます。

まとめ

今回のポイントを整理します。

  • BCPは作成して終わりではない。年1〜2回の訓練で試し、見直して初めて使えるものになる。
  • 訓練は「読み合わせ」「机上訓練」「応急手当・避難訓練」の3点セットで組み立てる。中心になるのは机上訓練。
  • 机上訓練は、園児を動かさず会議室と1時間で実施できて、BCPの「判断」と「情報」の穴が最も早く見つかる。
  • 実技訓練は新しく作らなくてよい。既存の月1回の避難訓練に、時間計測・持ち出し品・連絡手段の確認を足せば足りる。
  • 見直しは大掛かりにしない。訓練のたびに「うまくいかなかったこと」を3つ書き出し、該当箇所を直すだけでよい。

よくある質問(FAQ)

Q. 机上訓練とは何ですか?
A. 園児を動かさずに、職員が机を囲んでBCPを開きながら「この状況で自分は何をするか」を順に答えていく訓練です。会議室と1時間程度あれば実施でき、保育を止める必要がありません。実際に体を動かす訓練より短時間で、BCPの抜け漏れを多く見つけられることが特長です。

Q. 保育園のBCP訓練は年何回実施すればいいですか?
A. 回数の法的な決まりはありませんが、読み合わせ訓練と机上訓練は年1〜2回を目安にすると無理なく続けられます。4〜5月の新年度に読み合わせ、9〜10月の防災の日前後に机上訓練と応急手当、という形がお勧めです。実技の避難訓練は、すでに実施している月1回のものを活かせば十分です。

Q. 避難訓練はもうやっています。BCPの訓練とは違うのですか?
A. 避難訓練は「安全な場所まで逃げる」ための訓練です。BCPの訓練は、その先の「逃げたあと、保育をどう続ける・再開するか」までを含みます。ただし、まったく別のものを新しく作る必要はありません。既存の避難訓練に、時間の計測や持ち出し品・連絡手段の確認を足せば、それでBCP訓練として成立します。そのうえで、判断の部分を補うのが机上訓練です。

Q. 訓練の記録は残しておく必要がありますか?
A. 残しておくことをお勧めします。実施日、参加者、内容、そして「うまくいかなかったこと」を3つ。この4項目をA4用紙1枚にまとめておけば十分です。監査や行政への説明、保護者への説明責任の場面でも根拠になります。

Q. 職員のシフトがばらばらで、全員での訓練が難しいです。
A. 全員同時にこだわる必要はありません。机上訓練は会議室で1時間あれば実施できるので、同じシナリオを日を分けて2〜3回に分けて回すことができます。パート職員や新人職員にこそ届けることが大切です。

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この記事を書いた人 — 道才 竜進(どうさい りょうしん)
行政書士道才事務所 代表|行政書士・防災士・救急救命士

消防士として20年間、救急・災害の現場に従事(東日本大震災の対応経験あり)。その実務経験を活かし、行政書士として独立。現在は「防災士×行政書士」として、大阪を拠点に保育園・福祉施設・医療機関(クリニック・歯科)・建設業のBCP(事業継続計画)策定を、施設訪問からリスク評価・策定・訓練・顧問まで伴走型で一貫サポートしています。

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